先端技術「PERC」を凌ぐパナソニック太陽光発電「HIT」の性能とは
技術開発部長 岡本真吾氏に「HIT」の本当のすごさを教えていただきました
今回吉田様にインタビューをさせて頂いている途中でHITの技術的な質問をさせて頂いたところ、「『HIT』の話であれば、改めて技術者と話をできる機会を設けましょうか」とご提案を頂きました。
そして後日、なんと技術開発部長の岡本様がわざわざ弊社までお越しいただきインタビューに応じて頂きました。
当社のソーラーアドバイザーも全員同席し、貴重なお話を聞かせていただきました。
1986年3月 京都大学工学研究科で修士号を取得
1986年4月 三洋電機株式会社入社。中央研究所にてアモルファス太陽電池の高効率化研究に従事。
1998年京都大学より工学博士を授与。
2001年4月よりシリコンヘテロ接合太陽電池の研究開発を経て、
現在パナソニック株式会社エコソリューションズ社ソーラーシステムビジネスユニット技術開発部部長。
パナソニックの太陽電池モジュールHITに関するウエハ・セル・モジュール・システムの技術開発を担当。
中村 本日はわざわざご足労頂きまして本当にありがとうございます。
岡本氏こちらこそこのような説明の機会を頂きありがとうございます。
パナソニックに世界の主流「PERC」の技術は必要ない
中村
早速技術的な事についてご質問をさせていただきます。
現在世界的にはPERCと呼ばれる技術を採用したパネルが主流だと思います。現在日本市場でシェアを広げている海外メーカーもPERCを取り入れています。
しかし、貴社含めて国内でPERCを採用しているメーカーはありません。やはりPERCを採用するには何か技術的な問題があるのでしょうか。
※PERCとはセル背面にパッシベーション膜を設けることで発電効率を改善する技術。詳しくは後述します。
岡本氏
仰る通り、世界ではPERCが主流になってきていますよね。しかし、当社ではPERCの技術は取り入れていません。
できないのではなく、する必要がないのです。
少し難しい話になってしまいますが、理由を説明させていただきます。
中村
お願いします。
通常の単結晶シリコンのセルは電子ロスの原因となる未結合手(欠陥)が多数存在
岡本氏
まずは基本的な従来型の単結晶シリコンのセルの構造から説明します。
単結晶シリコンのセルはその名の通り、原料はシリコン(Si)です。シリコン自体は4本の手を持っていて、それぞれが手をつなぎ合っているような綺麗な構造をしています。
ところが、セルの表面はその綺麗に構造化されたシリコンが切断されて手足がどこにも繋がっていません。この部分は未結合手といって「欠陥」とも呼ばれます。
パナソニック提供資料
この未結合手が多数存在すると電子のロスが起きてしまうため、高い電圧を得られません。
変換効率、温度特性を高めるためには高い電圧が求められますので、未結合手が多いというのは大きな問題です。
この未結合手を非活性化することができれば、電圧が高まり、太陽電池セルの性能は上がっていきます。
ちなみにこのセル表面の未結合手を非活性化する技術のことをパッシベーションと言います。
中村
これでも相当、簡易的にお話し頂いているのだろうなと思います。なんとかついていっています。
「PERC」は通常の単結晶シリコンのセルよりも電子ロスを軽減 しかし部分的にはロスがある
岡本氏
ここで当初のご質問に戻りますが、PERCとはPassivated Emitter and Rear Cellの略ですので、従来の単結晶シリコンセルに比べてパッシベーション、つまり未結合手の非活性化が施されたセルという事です。
従来のセルでは特にセルの裏面側の未結合手によるロスが問題でしたが、未結合手を非活性化するために裏面にも絶縁膜を使用しているのがPERCの特徴です。
しかし、PERCの技術でも未結合手によるロスを完全になくすことはできません。構造上、電気を取り出すために、裏面全てを絶縁膜で覆う訳にはいかないので絶縁されていない部分ではロスが発生してしまいます。
パナソニック提供資料
中村
これがPERCの説明で使われているパッシベーション膜のことなんですね。
岡本氏
その通りです。そして、このパッシベーション膜の箇所にアモルファスシリコンを採用したのが当社の「HIT」です。
中村
俄然興味が湧いてきました。
HITは全面を覆うことでPERCよりも更に電子ロスを軽減できる
岡本氏
PERCは裏面に絶縁膜を使い、全面ではないにせよ未結合手を塞ぎ、今まではロスしてしまっていた電子をはじき返すという構造です。一方、HITは絶縁膜の代わりに、アモルファスシリコンを使用しています。
絶縁膜では裏面全部を覆うわけにはいきませんが、HITの場合は導電性のあるアモルファスシリコンですので全面を覆う事ができます。
パナソニック提供資料
中村
つまりPERCのように部分的に未結合手が発生することがないということですね。
岡本氏
そういうことです。つまりパナソニックはPERCセルを作れないのではなく、作る必要がないのです。
ちなみにセル1枚あたりの開放電圧はHITの方がはるかに高く、PERLというPERCの進化形と言われるセルでも追いつかないと言われています。
この電圧の高さが、HITの高効率、優れた温度特性につながっています。
パナソニック提供資料
中村
HITがシミュレーションよりも、実際はかなりよく発電する理由が今日やっとわかりました。