私心なき京セラ 太陽光発電の普及のためには海外メーカーの参入も歓迎
住宅用太陽光発電は競争の段階まできていない
中村:
製品についてではなく、住宅用太陽光発電を事業全体として考えたときについても聞かせてください。
戸成氏:
正直に言えば、住宅用太陽光発電は市場全体として、まだ各メーカーが競争に力を入れる段階まで来ていないと考えています。
まだ太陽光発電の市場は戸建住宅総数の10%にも満たないような状況です。
このような状況では各メーカーが限られたパイを奪いあうよりも、まずは市場自体を大きくしていかなければいけないでしょう。
中村:
確かに普及が着実に進んでいるとはいえ、まだまだ太陽光発電を設置しているのが当たり前という状況にはなっていませんね。
自らも太陽光発電を自宅に設置
戸成氏:
太陽光発電を設置しているのが当たり前という状況になるのはまだまだこれからですね。
私自身も自宅に太陽光発電を設置しており、設置してからもう22年が経ちますが太陽光発電はいいものだとつくづく感じています。
「こんなに良いものをなぜ買わないのか」と常に思っていますが、世間一般に十分に浸透するにはまだ時間がかかりそうです。
中村:
ご自宅に22年前に設置したとのことですが、現在はどのような状況ですか?
戸成氏:
今も現役で発電しています。発電量もほとんど落ちていませんよ。
パワーコンディショナは19年目で交換しましたが、太陽光パネルについては今のところ一度も修理はしていません。
太陽光発電のコストは劇的に下がっている
中村:
太陽光発電は以前に比べると価格も大幅に安くなりました。
導入ハードルは格段に下がっていますよね。
戸成氏:
以前と比べると本当に価格は安くなりました。
1994、1995年のカタログがあったので持ってきましたが、
3kWの設備が工事代込みの標準設置費用で税別600万円と書かれています。
3kWで600万円ということは1kWあたり200万円です。
現在の相場価格から考えると、5~6倍の価格ですよね。
弊社の製品に限らず、このころの太陽光発電は正直に言って、とても「元がとれる」という製品ではありませんでした。
営業マンは「電気代が下がりますよ」とお客様に提案するものの、提案する側もされる側も元はとれないことはわかっているという不思議な商品でしたね。
しかし、経済的メリットが考えられない中でも、身銭を切ってでも環境問題の解決に貢献しようと赤字覚悟で設置をしてくれた方がいました。
本当にありがたい話です。
太陽光発電は既に世間に認知はされている
中村:
それがいまや太陽光発電は10年程度で元がとれてしまうようになっています。
戸成氏:
以前からしたら考えられない状況ですね。
昔は太陽光発電という製品自体を知っている方が百人に一人ぐらいでしたし、太陽光発電について知っているという方も、「お湯が沸かせるんですよね」と太陽熱温水器と勘違いをしているという状況でした。
先ほど、まだまだ太陽光発電は設置しているのが当たり前という状況にはなっていないという話をしましたが、現在では太陽光発電という存在自体を知らない人はほとんどいません。
「売電」という制度についても多くの方がご存知でしょう。
これだけでも大した進歩です。
あとはこれだけ認知されている太陽光発電という製品を実際に導入していただけるように、どのようにアプローチするかです。
最初の補助金制度 仕掛け人は戸成氏
中村:
余剰買取制度を開始した初期のころは太陽光発電単体に国が補助金を用意していましたよね。
売電価格と合わせて補助金の金額も毎年下がるということで、「今のうちに導入したい」と考える方は非常に多かったです。
また、補助金に上限キャップが設定されることで、業者が不当に高額な契約を結ぼうとすることを抑制するという秀逸な制度でしたよね。
戸成氏:
実は私は2009年からJ-PEC(太陽光発電普及拡大センター。国の太陽光発電補助金業務を請け負っていた組織)の初代センター長を務めていました。
補助金制度の細かなスキームは徹夜で必死に考えたものですよ。
海外メーカー参入の扉を開いた戸成氏 しかし後悔なし
中村:
補助金制度は戸成さんが作っていたのですか。
全く聞いていなかったので驚きました。
当時の補助金制度に関して何か印象的なエピソードはありますか。
戸成氏:
J-PECの補助金の受給対象となるためには、まずはパネルメーカーは製品を補助金対象製品として登録するための認可を取る必要があります。
とある海外メーカーが補助金対象製品の申請をしてきて海外製第一号として承認したことは記憶に残っています。
現在多くの海外メーカーが日本市場に参入して、国内メーカーは熾烈な価格競争に巻き込まれている状況ですが、その始まりがあの時だったのかな、と思いますね。
中村:
競合になるであろう海外メーカーを補助金需給の対象製品として承認をするのは胸中複雑だったのではないでしょうか。
戸成氏:
いえ、参入障壁を設けるべきではないという国の方針もありましたし、太陽光発電が普及するためにはむしろ歓迎すべきだと前向きにとらえていました。
現在のように格安な海外メーカーが多く参入してきている状況は弊社にとって望ましい環境ではないかもしれませんが、太陽光発電に限らず現代社会において市場があるところグローバルになるのは当然のことです。
競争が生まれることは太陽光発電業界全体で見れば決して悪いことではありません。
太陽光発電の普及にとっては大変好ましいことです。
中村:
京セラのことよりも業界全体を発展させることを優先して考えるという姿勢に、とても京セラらしさを感じます。