東芝太陽光発電Sシリーズはなぜこんなに発電量が高いのか
東芝Sシリーズ 一番の特徴はバックコンタクト
1980年東京大学大学院修士修了
1980年株式会社東芝研究開発センターで材料応用技術センターに勤務
1993年同上 材料応用技術センター第二分析室室長
1996年同上 官公システム事業部環境エンジニアリング事業部担当課長
1999年同上 研究開発センター環境技術分析センター長
2002年同上 技術企画室国家プロジェクト管理担当グループ長
2006年同上 研究開発センター環境技術ラボラトリー技監
2009年同上 太陽光発電システム事業推進統括部技監
2017年東芝エネルギーシステムズ株式会社にて現職
工学博士、一級施工管理技士(電気、管)
中村:従来品含め、東芝Sシリーズはなぜこんなに発電性能に優れているのでしょうか。
読者の方も気になっていると思いますので詳しく解説をお願いします。
稲葉氏:まず
東芝Sシリーズの一番の特徴はバックコンタクト方式を採用していることです。
バックコンタクトの考え方は非常にシンプルです。
通常の太陽光発電モジュールは太陽光を遮ってしまう電極の部分をパネル表面に配置していますが、その電極部分をパネル裏面に配置することで日射量を最大限得られるようにしています。
私からすると、他メーカーが光を受ける前面に電極を持ってくるという感覚が信じられないのですが…
中村:確かに電極を裏面に配置するバックコンタクト方式の方が変換効率を高めるためには理にかなっているように思いますね。
バックコンタクト以外にも発電量を高める3つのポイント
東芝エネルギーシステムズ株式会社 住宅用太陽光発電システム 総合カタログ 2018-3
中村:バックコンタクトの他にも発電力を高める技術はありますか。
稲葉氏:もちろんSシリーズの高性能の理由はバックコンタクトだけではありあせん。
太陽光発電モジュールの性能を向上させるためには、
「光をどれだけ取り入れられるか」
「とりいれた光をどれだけ閉じ込めるか」
「とりいれた光をどれだけ発電につなげられるか」
の3点をそれぞれ高める必要がありますが、Sシリーズはこの3つのポイント全てで、発電効率を高める工夫をしています。
中村:それぞれ教えてください。
稲葉氏:まず「光をどれだけ取り入れられるか」という点については「ARコート」を採用しています。
「ARコート」とはモジュールを覆うガラス表面に施す反射防止のコーティングです。「ARコート」によって反射による光のロスを低減することができます。
中村:「ARコート」によって光を最大限吸収できるようにしているということですね。
稲葉氏:次に「とりいれた光をどれだけ閉じ込めるか」という点についてですが、セル表面に「反射防止膜」を設けています。
この「反射防止膜」によってパネル内部に取り込んだ光が反射して逃げることがないようにしています。
最後に、「とりいれた光をどれだけ発電につなげられるか」という点ですが、セル表面に「反射防止膜」を設けているのとは反対に、セルの裏面には「反射膜」を設けています。
このセル裏面の「反射膜」のミラー効果によって発電量を増大させています。
中村:他メーカーでもバックコンタクト方式を採用しているメーカーはありますが、御社のモジュールの変換効率が飛びぬけている理由がわかりました。
セルサイズを大きくできたことも性能向上につながった
1987年東京理科大学理学部 卒業
1987年東芝システムテクノロジー株式会社 入社
1998年同上 電力制御システム部 電力制御システム課 主務
2004年テーディーシステムテクノロジー株式会社 電力システム部 継電器設計担当 参事
2008年東芝システムテクノロジー株式会社 システムソリューション第五部 継電器設計担当 グループ長
2009年株式会社東芝 太陽光発電システム事業推進部 太陽光発電システム技術部参事
2010年同上 技術第二担当 グループ長
2011年同上 住宅用太陽光発電システム部 住宅技術担当 グループ長
2016年同上 住宅用太陽光発電システム技術部 部長
2018年東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーアグリゲーション統括部 エネルギーアグリゲーション開発・品質保証部 部長
齋田氏:あとは、パネルの性能を向上させていく中でセルサイズを大きくすることができたというのも大きいですね。
元々Sシリーズの初期のモジュール(SPR-210N-WHT-J)では対角線150mmセルサイズしかとりだせなかったものが、次のシリーズ(SPR-240NE-WHT-J、SPR-250NE-WHT-J)では160mm、現在採用されている新製品では166mmと徐々にセルサイズが大きくなっています。
セルサイズが大きくなるということはモジュール内において発電につながらない「バックシート(白い部分)」が占める割合を減らすことにつながりますので、効率の向上につながります。
元々、弊社のパネルはバックコンタクト方式で単位面積あたりの発電量が多いということもあり、発電に使える面積が増えることは変換効率の向上に大きな影響があります。
Sシリーズの新製品は性能の限界に近い
中村:今回の新製品の発表で大幅に変換効率が向上していますが、これからもバックコンタクト方式のモジュールは変換効率がどんどん向上していくと思っていいのでしょうか。
稲葉氏:今後もわずかには発電量を伸ばすことは可能だと思います。
しかし開発の費用対効果を考えると、バックコンタクトのモジュールの性能を今まで以上に追及することに意味があるかというと微妙なところですね。
単接合型太陽電池のセル変換効率の理論限界値は30%弱と言われており、すでに限界が近いので、今までの延長線上で大幅に変換効率を向上させることは難しいのではないかと思います。
今回の新製品はベストに近いと思いますよ。
保証条件も他メーカーより好条件
中村:Sシリーズの新製品はモジュール出力保証もかなり良い条件に変更しましたよね。
保証面の改善はカタログであまり強調されていなかったので、気づいていないお客様も多いと思いますが、個人的には非常に驚きました。
25年間モジュールの出力下限値に対して90%の出力を25年間保証するというのは、他メーカーに比べてかなりの好条件ですよね。
齋田氏:保証については環境の厳しい米国におけるフィールドテストで出力がほとんど落ちなかった、という結果を踏まえて設定しています。
保証条件は厳しく設定していますが、25年経っても保証対象になるほど出力の落ちるモジュールはほとんどないと思いますよ。
耐久性もすぐれている東芝Sシリーズ
稲葉氏:また弊社のSシリーズは衝撃に対する耐久性にも非常に自信があります。
実際に一般的なシリコン系セルと、弊社のバックコンタクトセルを用意しましたので、実際に力を加えて割ってみてください。
中村:確かに実際にねじって割ってみると違いがよくわかりますね。
通常のシリコン系のセルが簡単に割れて粉々になってしまった一方、バックコンタクトセルは相当力を入れないと割れません。しかも割れても「ひび」が入ったようになるだけで、破片が散るようなことにはならないですね。
齋田氏:一般的なシリコン系太陽電池セルはシリコン結晶状に焼き付けた薄い電極層があり圧力をかけると簡単に割れてしまいます。
その上、ねじりを加えると粉々になってしまい。発電を継続することができません。
しかし、当社のバックコンタクトセルは厚い銅メッキでセルの裏側を覆っているため構造的に強い上、万が一割れてしまっても裏面が銅でつながっているため、発電を継続することができます。
一般的なシリコン系セルが少し力を加えると簡単に割れた一方、
バックコンタクトセルは捻じってもなかなか割れず、強引に割っても粉々にならない