「1位はあえて狙わない」倒産リスクを回避するカナディアン・ソーラーの戦略
1位になると破たんのリスクが上がるのはジンクスか?
中村
コモディティ化※した市場では価格が大きな要素となるので、スケールメリットが生かせるトップシェアの数社しか生き残れないのが常識ですが、太陽光発電市場の場合各国の政策の変化の方がより大きな要因として関わってくるため、シャープ、Qセルズやサンテックパワー、インリーソーラーなど、シェアNo.1を取った企業が破たんや経営不振に陥るという事態になっています。
コモディティ化
市場参入時に、高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下し、一般的な商品になること。
高付加価値は差別化戦略のひとつで、機能、品質、ブランド力などが挙げられるが、コモディティ化が起こると、これらの特徴が薄れ、消費者にとっての商品選択の基準が市場価格や量に絞られる。
現在世界3位シェアを誇る御社は、普通に考えれば非常に優れたポジションを獲得していると感じますが、太陽光を実際に検討している方々はそのようには感じておらず、ひとまとめに「海外メーカーはなんとなく不安」、「規模が大きいからこそ破たんしてしまうのではないか?」というイメージから敬遠してしまう方が多くいらっしゃいます。
その点について何かご意見はございますか?
山本社長
たしかにおっしゃるとおり、この太陽光発電の業界では世界のトップを取ると破たんのリスクが見えてくるとよく言われます。
事実、ここまでそれが現実のことになっており、単なるジンクスで片付けられないと思います。
業界の中にいる各企業やマーケットリサーチなどの企業でも、トップを取ると経営破たんのリスクが高くなるという事実の背景に何があるのか、分析を進めています。
年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 |
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2016 | ジンコ | トリナ | カナディアン・ソーラー | ハンファQセルズ | JA |
2015 | トリナ | カナディアン・ソーラー | JA | インリー | ジンコ |
2014 | トリナ | インリー | カナディアン・ソーラー | ジンコ | JA |
2013 | インリー | トリナ | カナディアン・ソーラー | シャープ | ジンコ |
2012 | インリー | ファースト | トリナ | カナディアン・ソーラー | サンテック |
2011 | サンテック | インリー | トリナ | ファースト | カナディアン・ソーラー |
2010 | サンテック | ファースト | シャープ | インリー | トリナ |
2009 | ファースト | サンテック | シャープ | インリー | トリナ |
2008 | Qセルズ | シャープ | ファースト | インリー | サンパワー |
2007 | シャープ | Qセルズ | サンテック | 京セラ | ファースト |
2006 | シャープ | Qセルズ | 京セラ | サンテック | 三洋電機 |
2009-2016 IHS Research
2006-2008 SPV Market Research
販売量が多いと市場の振れ幅の影響が大きくなる
中村
かつて業界1位で経営破たんしたサンテックパワーにいらっしゃった山本社長にだからこそ伺いたい質問なのですが、なぜ1位をとった会社は破たんリスクが上がってしまうのでしょうか?
山本社長
この1位というのが販売量、「量」のトップという事が問題なんですね。
量を作るにはそれだけの生産工場をもたないといけない、サプライチェーンを抱えなければいけない。
そうなると、市場の動きが10%振れたとすると規模が大きければ大きいほど、その10%の振れ幅が大きい。
1000億の資産の会社と、100億の資産の会社の10%は違う訳です。
市場のスイングは常に起きますので、そのスイングがあってもどう持ちこたえるか。
そこが一つのチャレンジになるわけですね。
そしてこれもやはり1位の宿命ですが、1位に立った途端参考にするところが無くなります。
マラソンでも先頭を追いかけるランナーは自分の前を走るランナーを見みながら調整できるけども、ひとたび先頭にでるとペースメーカーはいなくなり、すべて自分でペースを考えるしかありません。
1位はあえて『狙わない』
中村
某国会議員ではないですが、1位でないとダメなのでしょうか?
山本社長
そんな事は全くありません。
20年、30年の企業存続性が一番求められることですから、1番を走る必要はないです。
これは私がサンテックパワーにいたからよくわかるのですが、どうしても1回量を追うと、なかなか戻れない。
大きくしたものは簡単には戻せないです。
建てた工場を閉鎖するのはかなり大変なことですし、工場の稼働率を落とすのは簡単ですが、そうするとコストに跳ね返ってきてしまうと。難しいですね。
弊社会長兼CEOのショーン・クーも常日頃色々なところで言っていますが、1位を狙わない。意図的に狙いません。
1位を常に見ながら、かつ、市場動向を見ながら自分たちの立ち位置を、工場への投資額を見極めてアジャストしています。
メガソーラー建設時はメーカーも金融機関から厳しい審査を受ける
中村
1位は意図的に狙わないというのは、非常に納得感があります。
他にエンドユーザーの方にわかりやすい、御社の経営健全性を示すものはございますか?
山本社長
日本だけでなくどの国でも、買取期間は20年スパンで動きます。
そして、発電所の規模が大きくなるほど、銀行から多額の融資が実行されます。
この時に融資する側である銀行から、本当に20年間このモジュールで大丈夫なのか、このメーカーで問題ないか等の審査をされます。
世界各国の銀行から様々な審査を得て弊社の製品が選ばれているという事実は、経営の健全性と持続性を証明する上で、最もエンドユーザーの方に納得していただけるのではないでしょうか。
銀行の審査は簡単に通るものではないのです。
中村
なるほどその視点はありませんでした。
与信管理のプロである銀行のチェックを、それも世界各国で受けているという事実は非常に説得力があります。
600MW以上の発電事業をもうひとつの経営の柱に
山本社長
さらにいえば、弊社は世界トップ5の中でも手持ちキャッシュが多いのが特徴です。
借入金が多いと見えるかもしれませんが、大半が現在積極的に取り組んでいる発電事業所の建設資金です。
発電所は、売電収入が定期的に入ってくる安定収益源ともなりますし、良い買い手が現れた場合は売却をする場合と両方あります。
弊社は発電事業主としてもかなりの規模があり、日本だけでもトータルで600MW以上の発電設備建設、所有を予定しており、もうひとつの経営の柱と考えられております。
これも経営の安定性に大きく貢献しています。