京セラが太陽光発電の特許侵害でハンファQセルズジャパンを提訴
京セラが特許侵害でハンファQセルズジャパンを提訴
7月10日京セラ株式会社がハンファQセルズジャパン株式会社に対して、太陽電池モジュール関連の特許(特許第4953562号)を侵害しているとして、東京地方裁判所に特許侵害訴訟を提起したと発表がありました。
これまで交渉を続けてきたが、進展がみられなかったことから、やむなく今回の訴訟提起に至ったとの事です。
特許侵害の中身は?
私を含めて太陽光業界に関わっている人たちの反応はおそらく、「本当に提訴したのか!?これはエラいことだ!!」だと思います。
京セラが特許取得しているのは簡単に言うと「3本のバスバー電極」です。
バスバー電極というのは太陽電池セル(太陽光パネルは太陽電池セルが集まったもの)で発電した電気を集める電極で、従来は2本だったものを京セラが3本にして高効率化をしたというものです。
「3本バスバー電極構造」セルを採用した太陽電池モジュールの特許を取得|京セラ
京セラはこの特許を2004年に出願し、2012年3月23日に取得しています。
そして同年9月4日にこの事を発表しその時既に他メーカーを牽制しています。
「3本バスバー電極構造」セルを採用した太陽電池モジュールの特許を取得
京セラ株式会社(社長:久芳 徹夫)は、太陽電池の基幹デバイスである太陽電池セルに「3本バスバー電極構造」を採用した太陽電池モジュールについて、国内における特許を取得いたしましたのでお知らせいたします。
(中略)
今後この特許に該当する電極構造を採用している企業に対して警告などを検討し、知的財産の保護に努めてまいります。
京セラの今回のプレスリリース内容
今回の京セラの発表で一番怖いのが以下の文章です。
ハンファQセルズジャパン社に対する特許侵害訴訟の提起について
現在、同社以外の太陽電池モジュールメーカーとも、同様の交渉をおこなっておりますが、その進捗状況により、これらのメーカーおよび、同構造のモジュールを販売している太陽電池モジュールメーカー、当該モジュールを取り扱う販売店、ならびに当該モジュールを使用して発電事業をおこなっている事業者に対しても、損害賠償や差止めを求める特許侵害訴訟の提起を検討してまいります。
つまり、メーカーだけでなく、販売した会社、買った人、これらすべてを損害賠償で訴える可能性がありますと言っています。
当然これを見たハンファQセルズを検討していた方から早速何件も相談を頂いています。
ハンファQセルズジャパンの反論
これに対してハンファQセルズジャパンはどのような対応をしているかというと18日にリリースを出しています。
京セラによる特許権侵害訴訟提訴について
2014年7月18日ハンファQセルズジャパン株式会社京セラによる特許権侵害訴訟提起について2014年7月10日、京セラ株式会社は、ハンファQセルズジャパン株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長キム・ジョンソ)に対して、太陽電池モジュール関連の「3本バスバー電極構造」に関する特許(特許第4953562号)を侵害しているとして、東京地方裁判所に特許侵害訴訟を提起したことを、ホームページ上で明らかにしました。
本件につき、訴状を受領しましたので、その概要と当社の見解についてお知らせいたします。
まず、本件訴訟は、ハンファソーラーワン社が過去に製造していた製品の一部のみを対象としており、同社が現在製造中の製品は対象とはされておりません。また、当社はQセルズ社製品の輸入販売を行っておりますが、Qセルズ社製品は対象とされていません。なお、本件訴訟においては、何ら差し止めの請求はされておりません。
当社といたしましては、3本バスパ―電極構造は、京セラの特許出願に先立って、遅くとも1990年代には研究論文等により公表されていた公知の技術であり、京セラの主張は一方的なものであると考えております。
京セラの今回の訴訟提起に関するホームページ上の公表内容は、当社の製品のみならず3本バスバー電極構造の太陽光発電パネルの利用者様にご心配をかける行為であり非常に遺憾と感じております。当社といたしましては、当社のお客様にご迷惑が及ぶようなことのないよう、万全の措置を講じていく所存であります。
当社は本件について今後も状況の推移について迅速に事実を情報発信してまいります。
内容を整理すると以下の5点になると思います。
- 現在製造中の製品ではなく過去の製品に対する訴訟である
- ハンファソーラーのパネルに対してのものでQセルズのパネルは無関係である
- 既に研究論文等で公表されていた公知の技術だから京セラの主張は一方的
- 3本バスバー電極構造採用の他メーカーの利用者にも心配をかける行為で遺憾だ
- お客様に迷惑が及ばないように万全の措置を行う
公知の技術だから京セラの主張は一方的であるという反論は、それでも特許が取れている訳ですから無理があります。
ですが一点激しく同意するのは他メーカーの利用者にも心配をかける行為であるという主張です。
京セラがハンファQセルズを訴えた意図
3本バスバー電極構造は今やほとんどのメーカーが採用している電極構造です。
ハンファQセルズジャパンが主張しているように、公知の技術であると言えるくらいのものですのでどちらかというと特許が取れた事の方が驚きでもあります。
ですので今回の訴訟は太陽光発電業界全体を萎縮させるだけのインパクトのある事であると京セラは認識しているはずです。
その上でなぜ京セラが踏み切ったのかを勝手に推測するのに一つ判断材料となるのは、約1年半前に業界紙ソルビストのインタビューで京セラのソーラーエネルギー事業本部マーケティング部長が答えているのがヒントになる気がします。
京セラが初めて語る 3本バスパー特許問題
「現在の国内PV市場は大きく二極化している。投資コストを抑え10%以上のリターンを期待される方は海外製へ、6~8%程度であるが安心を重視し20年の運用を検討される方は当社含め国内製の採用を希望する声が多い。メーカーである以上、製品には責任を持たなければならない。利益を堅実に確保することで、はじめてお客様に対して長期に亘る安心・安全・保証が提供できる。その為、当社では製品開発・コストダウンに日々最大限の努力を重ねている。市場が破壊されかねない価格で、赤字を出してまで勝負に出ているメーカーはどうなのか」
明確な言動は避けているものの、おそらく廉価で太陽光発電市場の健全な発展を損なう恐れのある海外メーカー、それに傾倒しがちな市場への警告なのではと思います。
おそらく上記の理由があるからこそ、昨年度(2013年度)に日本で一番販売実績を上げたハンファQセルズジャパンをターゲットにし、そして威嚇であるからこその今回の訴訟内容なのではないでしょうか。
まとめ
日本の太陽光発電業界は長らくシャープ、京セラ、三菱、サンヨー(現パナソニック)の4社寡占でした。
この4社が競い合い、日本市場を作ってきたと言っても過言ではありません。
今回の訴訟までの一連の動きを見ていて、この3社に対して今後京セラが何かをするとは正直思えません。
その後新規参入した東芝はバックコンタクトですし、ソーラーフロンティアは化合物系ですのでそもそも今回の訴訟対象ではありません。
そうなると京セラのターゲットとなる可能性が高いのはやはり海外メーカーであると思うのです。